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愛知県の主婦の日常雑記

久保田竜子「英語教育幻想」感想

 英語教育に長く携わってきた研究者である筆者が、その中で見受けられる多くの「幻想」を、知見からぶった切っていく本です。

英語教育幻想 (ちくま新書)

英語教育幻想 (ちくま新書)

幻想1 アメリカ・イギリス英語こそが正統な英語である→世界英語では中心円=米英・カナダなどの人々は6%に過ぎない。多数派は正統でないと言えない。ただ評価・評定の基準をどうするかという問題はあり得る。

2 ことばはネイティブスピーカーから学ぶのが一番だ→ネイティブの定義の不明瞭、アジア系カナダ人が自分をネイティブと認識していても他人からは非ネイティブと認識される現状。ネイティブ偏重の雇用状況。一方非ネイティブの優位性もある。英語をいかに非英語圏の人間に教えるか、をよくわかっているからだ。

3 英語のネイティブスピーカーは白人だ→知識の中のレイシズム。非白人性は、実際どうあろうと、非ネイティブのイメージと重なる。ジャック&ベティが醸し出す「豊かな白人のアメリカ」への憧れ。

4 英語を学ぶことは欧米の社会や文化を学ぶことにつながる→実際は80年代日米同盟強化に伴う米国との関係強化。また、英語は受信時は世界=欧米だが、発信時は世界=世界中と誤認しやすい。「敗戦直後の教科書Jack and Bettyが米国の歴史・習慣・白人中流階級の生活などを美化してアメリカを描いていたように、日本人としての自覚を持って発信する『日本文化』は理想像を飾りつけたものである可能性が高いのです」

5 それぞれの国の文化や言語には独特さがある→英語は論理的、日本語はあいまいという言説は本質主義の助長であり文化の美化。「日本人論」ブームに影響された見方。また書く場合だが、書く能力には英語・母語を超えた構成能力が必要であり、日本人の英語だから非論理的だという主張は正しくない。

6 英語ができれば世界中誰とでも意思疎通できる→有用だが限界がある。商社駐在員の調査では現地語の方が有用であったり、日本語だけでOKだったり。コミュニケーション・ストラテジーを駆使できれば問題ではない。

7 英語力は社会的・経済的成功をもたらす→統計的に有意ではない。財界ひいては英語教育業界が新自由主義に則って個人の資質=英語力があれば成功!と煽っている

8 英語学習は幼少期からできるだけ早く始めた方がよい→たとえばアメリカに移民した場合など、第二言語としてなら幼い方が良い場合も。外国語としてインプット・アウトプット共に少ない場合は早期からの有利さは証明できない

9 英語は英語で学んだ方がよい→教室の大勢の生徒が母語に頼ってしまう場合などは英語オンリーにした方がよい場合もあるが、母語を活用し補助した方が優位であると考える。多様性評価の観点から推奨されるトランスランゲージングにも沿う考え方

10 英語を学習する目的は英語を使うことである→英会話学校を見ると趣味・余暇として通う人が多い。英会話講師に擬似恋愛をしている人もいる。消費としての学びは悪いことではない。実用を超えた情緒的な側面も評価されるべき


 という内容でした。
 英語教育と一口に言いますが、色々な問題を孕んでいるということに気づきました。特にレイシズムの問題と絡まっていることは発見でした。「小さいうちから学ぶと発音が良くなる」世界英語、共通語としての英語が氾濫する中で欧米の発音に阿ってどうするのか。正統な英語って何なのか。ネイティブって白人なのか、実際に英語教師として外国人を採用する場合白人に偏る現状がある、そもそもネイティブって何なのか。英語をバリバリ話す=成功者イメージは財界からの肩入れもあり、レイシズムの裏付けもついています。
 英語を学ぶ意味を落ち着いて考えさせる良書でした。